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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9630号 判決 1996年3月21日

原告

藤井利一

ほか一名

被告

土肥潤一

主文

一  被告らは、連帯して、原告らに対し各三四五五万七五八二円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その五を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して原告らに対してそれぞれ金六〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告土肥潤一が普通乗用自動車の運転操作を誤り、対向車線を進行する普通乗用自動車に衝突した事故であり、同被告運転の普通乗用自動車の同乗者が死亡し、その遺族が損害賠償請求し、逸失利益が争われた事案である。

一  争いのない事実及び証拠により認められる事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 平成五年一〇月三〇日午後五時五八分頃

(二) 発生場所 大阪市港区海岸通二丁目七番一号先路上

(三) 関係車両 被告土肥庸嗣(以下「被告庸嗣」という。)所有、被告土肥潤一(以下「被告潤一」という。)運転の普通乗用自動車(和泉三三な八四七一、以下「被告車」という。)

(四) 事故態様 被告潤一は、被告車の運転につきハンドル・ブレーキ操作を誤り、訴外山口正弘運転の普通乗用自動車に衝突させ、被告車に同乗していた訴外亡藤井志都代(以下「亡志都代」という。)を死亡させた。

2  責任

(一) 被告潤一の責任

被告潤一は、被告車を運転して、本件事故発生場所交差点を北東から西に向かい直進進行するに当たり、本件事故現場道路が降雨のため路面が湿潤しており滑走し易い状況であつたから、ハンドル・ブレーキを確実に操作して進路を保持して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約六〇キロメートルに加速し、左に急転把して進行したことにより、被告車を左斜めに暴走させたところ、同交差点南方道路東側歩道を走行する自転車に気づき、狼狽のあまりに右に転把したため、折から南方道路を北進してきた訴外山口正弘運転の普通乗用自動車に衝突させ、被告車に同乗していた訴外亡藤井志都代を死亡させたので、民法七〇九条に基づく損害賠償義務がある。

(二) 被告庸嗣の責任

被告庸嗣は、被告車の保有者であり、自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者責任がある。

二  争点

1  逸失利益

(一) 原告らの主張

亡志都代は、大阪市立大学を卒業し、日本電気株式会社の系列会社である関西日本電気ソフトウエア株式会社(以下「関西日本電気」という。)に勤務し、コンピユーターのソフトウエアの開発や、コンピユーター導入作業の仕事に携わつており、死亡による逸失利益の算定では、死亡当時の給与の他に将来の給与の昇給分、退職金分も加算すべきである。

(二) 被告らの主張

争う。

2  搭乗者傷害保険

(一) 被告らの主張

原告らは、被告庸嗣の加入する自動車保険により保険会社から搭乗者傷害保険金一〇〇〇万円を受領しており、右事実を慰謝料算定にあたり斟酌すべきである。

(二) 原告らの主張

搭乗者傷害保険金は、賠償とは別の見舞金とするのが契約者の通常の意思であり、慰謝料算定にあたつて考慮すべきでない。

第三争点に対する判断

証拠(甲一乃至四、五の一乃至七、六、七の一、二、八乃至一〇、一一の一乃至三、一二乃至一五、一六の一乃至八、一七乃至二一、二二の一乃至六、二三、二四、乙一、)によれば、以下の事実が認められる。

一  本件事故態様、責任については、前記争いのない事実及び証拠により認められる事実のとおりである。

二  損害額(括弧内は原告らの請求額である。)

1  治療費等(七八万一六四〇円) 七八万一六四〇円

治療費等が七八万一六四〇円であることについて当事者間に争いはない。

2  逸失利益(九五五八万四〇二七円) 四三九一万五一六四円

亡志都代は、大阪市立大学を平成三年三月に卒業し、同年四月一日から本件事故まで関西日本電気に勤務しており、平成四年分の給与・報酬額は三九一万九九四九円であるので、右金額を基礎とし、生活費控除を五〇パーセント、死亡当時は二五歳であつたので六七歳まで就労可能として新ホフマン係数により損害の現価を算定すれば、次の算式のとおり四三六九万三七一一円となる(円未満切り捨て、以下同じ)。

3919949×0.5×22.2930=43693711

原告らは、右に加えて将来の昇給分及び退職金分を逸失利益として請求するが、亡志都代は若年であり、勤務期間も入社から二年半であり、定年まで勤務を継続する蓋然性があると言いえないので退職金については逸失利益として算定しない。

給与・賞与の昇給分について、原告らは、平成四年度から平成七年度までの昇給額と昇給割合を証拠として提出する(甲二三)。

右によれば、平成四年度の昇給率は九・八パーセントであるが、平成五年度は五・二パーセント、平成六年度は二・六パーセント、平成七年度は一・七パーセントとなつており、年度により大きく昇給率が変化している。

右の事から、将来においても昇給率が一定であるとは到底言いえなく、将来における昇給分について逸失利益とすることはできない。

しかしながら、死亡後の平成五年一一月から平成七年一二月までの昇給分については、既に確定しているものであるから、右期間について前記昇給金額を乗じると、昇給額は一三万三二六〇円であり、賞与については平成五年は半期、平成六年、同七年は全期として賞与の増加分は八万八一九三円であり、合計二二万一四五三円であり、右金額を前記金額に加算し、逸失利益は四三九一万五一六四円である。

3  葬祭費(原告利一、一二七万二〇六四円、原告理輝子、一二七万二〇六四円) 一二〇万円

原告らは各自葬祭費を請求するが、葬祭費として認められるのは一二〇万円である。

4  死亡慰謝料(二四〇〇万円) 二〇〇〇万円

死亡慰謝料として二〇〇〇万円が相当である。

なお、被告らは原告らが保険会社から搭乗者傷害保険金一〇〇〇万円を受領しており、右事実を慰謝料算定にあたり斟酌すべきである、と主張するが、搭乗車傷害保険金は、損害額にかかわらず定額が支払われ、右支払いによつても保険代位が生じないものであるので損益相殺しないとするのが最高裁判例である。右判例によれば、慰謝料として斟酌することまで否定したものではないが、本件事故においては、被告潤一のスピードの出しすぎによる運転が原因の暴走であることからすると、慰謝料として斟酌すべきものとは認められない。

5  損害額小計

以上のとおり認められるので損害額は六五八九万六八〇四円である。

四  損害填補

被告らから、治療費等七八万一六四〇円が支払われたことについて争いはないので右金額を損益相殺すると損害額は六五一一万五一六四円となる。

五  相続

原告らは亡志都代の父、母であり亡志都代の損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続したので、原告ら各自の損害額は三二五五万七五八二円である。

六  弁護士費用

弁護士費用は原告らについて各二〇〇万円ずつである。

第四結論

よつて、原告らの請求は被告らに対し、連帯して各三四五五万七五八二円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

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